そもそも中国料理にワインは合わない。しかし、昨今の料理界の技術向上は目覚ましく、中国料理のそれも別ではない。少々意地悪なオーダーだ。
 「山下さん、本誌5周年記念にふさわしい、“ワインに合う中国料理”をお願いします。」
 一週間程前に入れたオーダーである。
「蔬菜燻鵝肝/フォアグラスモークのステーキ」
 一品目は、まずはフォアグラに驚いた。中国料理の食材としては珍しい。しかし、中国香料を燻し、スモークするのは中国の調理法ならでは。
 もちろん「華市」が冷凍物を使うはずもない。箸で触れるだけで崩れる柔らかさ。香菜と大蒜、ナンプラーで仕上げた、オリジナルソースが絶品だ。
 「タイ料理を研究している時に出逢ったシャンツァイソースを食べやすく仕上げました。もちろん、米と大豆でつくる揚豆腐も手造りですよ。」
 何より、この中国料理らしからぬ華やかな盛り付けにも驚かされる。フォアグラはそもそも私の好物。知ってか知らずか、これも料理人の“カン”か?
「桧扇貝/ヒオウギ貝のマカオソース」
 2品目は、これまた非常に珍しい、ヒオウギ貝を使った料理。このマカオソース、ポルトガル領だったマカオ生まれで、古くから西洋文化に影響を受けた香港に取り入れられ、発展したもの。
 「香港の旅で出逢った料理を、華市流にアレンジしてみました。」
 と、山下氏。柔らかなソースの中に、シャクシャクと野菜の食感が楽しい。鶏肉とわたり蟹が、ココナッツミルクとカレー風味と絶妙に合う。マイカイの花びらがオシャレだ。
 研究熱心で知られる山下氏は、実は薬膳調理師の認定も受けている。実に東海地区で2人目だったそう。
 「薬膳といいながらも、もともと中国料理は“医食同源”ですから。」
 無理なく野菜をとれる料理を、常に心掛けているそうだ。
 「自分の畑で、自分が育てた野菜を調理してお出しすることの方が大切な気がしています。」と、薬膳師であることを少しも自慢しない。
 氏が生み出す中国料理はさらに斬新に進化を遂げてゆくだろう。しかし、それは中国料理に対する熱意と、日々の鍛練があってのこと。決して時流に任せた軽薄なものではない。